看護師として優しさを大切にしてきたのに、気付いたら心がすり減っていると感じることはありませんか。
患者や同僚の気持ちを受け止め続けるうちに、自分の感情を後回しにしてしまう人は少なくありません。
この記事では、優しい人ほど辞めたくなる理由や葛藤、背景にある心理をていねいに整理しながら、心を守るための考え方を一緒に見つけていきます。
優しい人ほど看護師を辞めると言われる背景

看護師は優しい人が向いていると言われながら、その優しさゆえに辞める決断まで追い詰められてしまう人もいます。
仕事として命と向き合い、患者や家族の感情を受け止め続ける中で、心の中にたまっていく疲れは表から見えにくいものです。
ここでは、優しい看護師がなぜ離職や転職を考えやすいのか、その背景にある構造や心理をゆっくり整理していきます。
自分を責める前に、「そうなりやすい理由」があることを一緒に言葉にしていきましょう。
優しさが職場で誤解されやすい理由
看護師としての優しさは、本来とても大切な力です。
ただ現場では、「何でも引き受けてくれる人」「頼みやすい人」と見られてしまい、仕事が集中しやすくなることがあります。
はっきり断ることが苦手な性格だと、お願いごとを断れず、残業や担当業務が増えていくという相談も多く聞かれます。
そうしているうちに、周囲からは頑張り屋として期待され、自分でも無理を当たり前のように受け入れてしまう流れ。
その結果、優しさが評価という形ではなく、「任せても大丈夫な人材」として消費されるような感覚が生まれてしまいます。
看護の現場で求められる役割とのギャップ
看護師を目指したきっかけとして、「人の役に立ちたい」「寄り添いたい」という思いを挙げる人はとても多いです。
けれど実際の現場では、じっくり話を聞きたくても時間に追われ、業務を優先せざるを得ない場面が続きます。
患者に申し訳なさを感じながら、処置や記録を優先しなければならない矛盾は、優しい人ほど強く心に残りやすい傾向があります。
「もっと一人一人と向き合いたいのに」「流れ作業のようになってしまう」といった違和感が積み重なると、自分の理想と現実の距離に戸惑いを覚えます。
そのギャップが続くことで、気付かないうちにやりがいよりも虚しさの方が大きくなり、辞めたくなる気持ちが少しずつ育っていきます。
共感力の高さが負担になる場面
優しい看護師は、患者や家族の表情や声のトーンに敏感で、言葉にされていない思いにも気付きやすいです。
その力はケアの質を高める一方で、つらい話や怒り、不安を自分の内側に抱え込みやすいという側面もあります。
終末期の患者に寄り添ったり、家族から不安や不満をぶつけられたりすると、自分の感情まで大きく揺さぶられることがあります。
勤務が終わっても頭から離れず、家に帰ってからもその人のことを思い出して胸が重くなる、という声もよく聞かれます。
共感力の高さが、そのまま共感疲労やバーンアウトにつながりやすいという現実が、優しい人ほど辞める要因の一つになっていきます。
優しい人が抱えやすい心の揺れ
優しい看護師は、「自分が頑張れば何とかなる」「迷惑をかけたくない」という気持ちを強く抱きがちです。
職場の忙しさや人手不足を目の当たりにすると、「自分だけ辞めるなんて無責任なのでは」と考えてしまい、辞めたい気持ちを抑え込もうとします。
一方で、身体の疲れや睡眠不足、感情の揺れが続くと、「このまま続けたら壊れてしまいそう」という不安も顔を出します。
「この仕事は好き」「でも今の働き方は苦しい」といった相反する気持ちが同時に存在して、気持ちの整理がつかなくなることも少なくありません。
その心の揺れを誰にも打ち明けられず一人で抱え込んでしまうことが、優しい人ほど看護師を辞めるかどうかで長く悩む背景になっていきます。
看護師に優しさが求められる現実

看護師という仕事は、技術や知識だけでなく、人の気持ちに寄り添う力が強く求められます。
現場では「優しい人でいてほしい」と期待される一方で、その優しさが当たり前のように扱われてしまうこともあります。
ここでは、看護師に求められる優しさの実態と、その裏に潜む負担について、一緒に見つめ直していきましょう。
患者への気遣いが積み重なる瞬間
病室を回るたびに、体調だけでなく表情や声色にも気を配る時間が続きます。
痛みを我慢しているように見えたら声をかけ、ささいな変化にも注意を向けることが習慣になっている人も多いと思います。
検温や処置の合間に、患者の不安や愚痴に耳を傾ける場面も少なくありません。
その一つ一つは大切な関わりですが、業務量が多い中で続けていると、自分の心のエネルギーがじわじわと削られていきます。
「もう少し話を聞きたいけれど、次の業務が待っている」という後ろめたさも重なって、気遣いの積み重ねが負担に変わっていきます。
仲間から頼られやすい構造
優しい人は、同僚からも相談しやすい雰囲気を持っていることが多いです。
忙しい時間帯に「申し訳ないけれど、これもお願いできる」と声をかけられたり、困っている後輩のフォローに入ったりする機会も増えがちです。
断ると相手が困ることが分かっているからこそ、自分の仕事を調整しながら引き受けてしまう場面もあります。
その結果、残業が多くなったり、休憩が削られたりしても、「みんなも大変だし」と自分を納得させようとしがちです。
こうした構造が続くと、「優しいから頼りにされている」のか「断れないから任されている」のか分からなくなり、心の疲れが増していきます。
感情労働としての看護の重さ
看護は、身体へのケアだけでなく感情へのケアも求められる仕事です。
不安で眠れない患者のそばに座ったり、治療方針に納得できない家族の話を聞いたりと、気持ちの揺れに寄り添う場面が日常的にあります。
表には出さなくても、内心は一緒に心を痛めたり迷ったりしながら関わっている人もたくさんいます。
心理学では、このような仕事を感情労働と呼び、ストレスが蓄積しやすい領域だと指摘されています。
優しい看護師ほど、感情を切り離すことが難しく、自分の心も一緒に疲れてしまいやすいことを知っておいてもよいかもしれません。
優しさゆえに抱え込みやすい背景
周りに気を配れる人ほど、「自分が弱音を吐いたら迷惑をかけてしまう」と感じやすい傾向があります。
新人や後輩が頑張っている姿を見ると、「自分がしっかりしなくては」と気を張り続けてしまうこともあります。
また、患者や家族の前では笑顔でいようとするあまり、自分の疲れやつらさを後回しにする場面が続きやすくなります。
気付いたときには、心の中に誰にも話していない不満や戸惑いがたまっていて、「ここまで我慢してきたのに」と感じる瞬間も訪れます。
優しさがあるからこそ、周囲を思いやって抱え込んでしまうという背景を知っておくと、自分を責め過ぎずに状況を見つめ直しやすくなります。
優しい看護師が辞めたいと感じやすい理由

優しい性格の看護師が、「辞めたい」と口に出さなくても、心の中で何度も考えてしまうことがあります。
それは根性が足りないからでも、愚痴っぽいからでもなく、優しさゆえに背負ってしまう負担があるからです。
ここでは、優しい人が特に辞めたい気持ちを抱きやすい具体的な理由を、日常の場面を思い浮かべながら整理していきます。
自分の中でモヤモヤしていた感情に、少しずつ言葉を当てていきましょう。
断りづらさが引き起こす心の疲れ
頼まれごとを断るのが苦手な人ほど、仕事が集中してしまいやすい傾向があります。
「手が空いたらこれもお願い」「悪いけれど、これも見てくれる」と声をかけられたとき、本当は自分の業務で精いっぱいなのに、つい笑顔で引き受けてしまう場面は少なくないと思います。
最初は「お互いさまだし」と前向きに考えられても、それが重なっていくと、自分だけいつも時間に追われているような感覚が強くなっていきます。
断る練習をすることも一つの方法ですが、もともとの人柄や職場の雰囲気によっては難しさを感じやすい部分です。
自分の断りづらさが悪いのではなく、優しい人ほど無理をしやすい状況になっている、と視点を変えて眺めてみることも大切です。
責任感と自己犠牲が続く日々
看護師として働いていると、「患者の安全を守らなければ」「仲間に迷惑をかけたくない」という責任感が常に付きまといます。
真面目で優しい人ほど、その責任を自分一人で抱え込もうとして、多少体調が悪くても休まずに出勤したり、ミスを恐れて必要以上に確認作業を重ねたりしがちです。
気付けば、自分の睡眠時間や食事、趣味の時間を削ってまで仕事を優先する生活になっていることもあります。
自己犠牲的な働き方を続けていると、「このままでは心も体も持たないかもしれない」と感じる瞬間が増えていきます。
責任感は大切な力ですが、それが強く出過ぎてしまうことで、辞めたい気持ちを後押ししてしまうこともあると知っておくと、少し気持ちが整理しやすくなります。
忙しさで自分の感情が置き去りになる
日勤も夜勤も慌ただしく、ナースコールが鳴りやまない日が続くと、自分の感情に目を向ける余裕がどんどん減っていきます。
本当はつらかった出来事や、納得できなかった対応があったとしても、「今は考えている場合ではない」と心の隅に押し込めてしまいがちです。
そうした感情は消えているわけではなく、積み重なっていき、ふとした拍子に涙が出てきたり、何もないのにイライラしたりといった形で表に出てくることがあります。
忙しさに流されるまま働き続けるうちに、「自分が何を感じているのか分からない」「前は好きだった仕事なのに、今はただしんどいだけに感じてしまう」と戸惑う人も少なくありません。
自分の感情が置き去りになる状態が続くと、心がついていけなくなり、辞めたいという思いが強くなっていきます。
優しい人ほど周囲に合わせてしまう事情
職場の人間関係に気を配るあまり、本音を飲み込んでしまう場面も多いのではないでしょうか。
本当は業務量の偏りに違和感を覚えていても、「今言ったら空気が悪くなるかもしれない」と考え、様子を見てしまうことがあります。
シフトの希望を出すときも、「自分が我慢すれば丸く収まる」と考えて、休日の調整を後回しにする人もいます。
周囲に合わせること自体が悪いわけではありませんが、自分の希望や限界を伝えないままでいると、「分かってもらえない」という孤独感が強まっていきます。
優しい人ほど、周囲を優先するあまり、自分の気持ちを置き去りにしてしまうことが、辞めたい思いに拍車をかけてしまう一因になります。
心の限界に気付きにくい理由
看護の現場では、「忙しいのが当たり前」「誰もが大変」という空気が漂っていることが多いです。
そのため、自分の疲れや不調に気付いても、「みんなも同じくらいしんどいはず」と考えて、無理を重ねてしまいやすくなります。
周囲からも「頑張り屋」「頼りになる」と見られていると、弱さを見せづらく、心の限界を後回しにしてしまう傾向があります。
ある日突然、職場に行こうとすると体が動かなくなったり、涙が止まらなくなったりして、そこで初めて自分の限界に気付くという話もよく聞かれます。
限界に気付きにくい環境や性格の中で、辞めたい気持ちが静かに育っていくことを知っておくと、「なぜ自分だけ」と責める気持ちが少し和らぎます。
辞めたい気持ちの裏にある葛藤

看護師を辞めたいと思った瞬間があっても、そのまま行動に移せない人はとても多いです。
頭では「今のままではつらい」と分かっていても、心のどこかで仕事への思いや周りへの責任感が引き止めてしまうことがあります。
ここでは、辞めたい気持ちの裏側で静かに揺れ続けている葛藤に目を向けていきます。
自分でも整理しづらかった感情を、少しずつ言葉にしてみましょう。
使命感と現実の板挟みになる瞬間
看護師という仕事を選んだとき、多くの人は「人の役に立ちたい」という思いを胸に抱いていたと思います。
その使命感があるからこそ、忙しい中でも患者の変化を見逃さないように意識し、ミスを防ぐための確認も欠かさず続けてきたはずです。
一方で、現実の職場環境は、人手不足や長時間勤務、理想通りにケアができない焦りなど、厳しさを突きつけてきます。
「こんな状態で本当に良い看護ができているのだろうか」と感じたとき、使命感と現実の間で強い板挟みを経験することになります。
そのギャップが大きいほど、仕事を続けたい気持ちと離れたい気持ちの両方が生まれ、心が揺れ動きやすくなります。
辞めることで誰かを傷つけるような罪悪感
辞めたい気持ちがはっきりしてきても、「自分が抜けたら現場がさらに大変になるのでは」と考えてしまう人は少なくありません。
同僚の顔を思い浮かべると、「今でも人手が足りていないのに」と心配になり、退職を切り出すことに強いブレーキがかかります。
長く関わってきた患者や家族のことを思い出して、「途中で投げ出すように感じてしまう」と自分を責めてしまう人もいます。
そうした罪悪感が強くなるほど、「辞めることはわがままではないか」と考え込んでしまい、気持ちの整理が進みにくくなります。
辞めたいという感情の裏には、誰かを大事に思う気持ちがあるからこそ、簡単には決断できない葛藤が生まれていると捉えてみることもできます。
心の弱さではなく構造の問題である理由
看護師を辞めたいと思ったとき、多くの人が最初に抱くのは「自分が弱いだけなのでは」という自己否定に近い感情です。
しかし、実際には医療現場の人員配置や業務量、時間外労働の多さなど、個人の努力だけでは変えにくい要素がたくさん絡んでいます。
優しい人ほど「もっと頑張れたはず」と自分を責めがちですが、専門職として酷使されやすい構造があることは、さまざまな調査でも指摘されています。
心身の不調を訴える看護師が一定数いるという現実は、個人の甘えではなく、働き方や環境の在り方の問題とも言えます。
自分の心だけを責めるのではなく、置かれている状況そのものを客観的に見てみる視点を持っておくと、少し呼吸がしやすくなります。
自分を責めてしまう心理の背景
優しい人は、何かうまくいかないことがあったとき、「自分の対応が悪かったのでは」「もっとできることがあったのでは」と、自分側の原因を探しやすい傾向があります。
ミスを防ぎたい気持ちが強い分、ちょっとした行き違いや患者の状態の変化に対して、過剰に自分を責めてしまうこともあります。
そうした積み重ねが続くと、「自分は看護師に向いていないのでは」という思いに結び付きやすくなり、辞めたい気持ちに拍車がかかります。
背景には、真面目さや責任感の強さ、周囲への思いやりといった、もともと持っている優しさが関係していることも多いです。
自分を責めてしまう心理を理解しておくと、「向いていないからではなく、頑張り過ぎているから苦しくなっている」という整理もしやすくなります。
優しい人が抱える共感疲労という心理

患者や家族の思いに深く寄り添えることは、看護師として大きな強みです。
その一方で、相手の感情を自分のことのように感じてしまい、心がすり減っていく人も少なくありません。
ここでは、優しい人ほど直面しやすい共感疲労の仕組みやサインについて、現場の声でよく語られる場面を交えながら整理していきます。
感情が吸い取られるように感じる状況
「今日も濃い一日だったな」と感じる日が続くと、病棟を出る頃には全身がどっと重くなることがあります。
患者の不安や痛み、家族のやりきれなさを受け止め続けているうちに、自分の心も同じように疲れてしまう感覚が生まれます。
頭では仕事だと分かっていても、感情まで切り離すことがうまくできず、まるで自分のエネルギーが少しずつ吸い取られていくように感じる人もいます。
そうした日が続くと、オフの日にも何もする気が起きない、好きだったことに手が伸びないといった変化につながりやすくなります。
患者や家族の感情に強く影響される理由
優しい看護師は、言葉だけでなく、表情や声の揺れから相手の気持ちを敏感に感じ取る力を持っています。
つらい検査を控えた患者の不安そうな目や、病状を受け入れ切れない家族の混乱した様子を前にすると、自分の心も大きく揺さぶられます。
その場では冷静に対応していても、あとになってふと思い出し、胸の奥がぎゅっと締め付けられるような感覚が残ることもあります。
こうした影響の受けやすさは、冷たいのではなく優しいからこそ生まれる反応だと理解しておくと、自分を責め過ぎずに向き合いやすくなります。
共感が深い人ほど疲れやすい仕組み
共感力が高い人は、相手の気持ちを想像する能力に優れています。
その一方で、相手と自分との境界線があいまいになりやすく、相手が感じている不安や怒り、悲しみを、自分の内側にも強く取り込んでしまう傾向があります。
心理の分野でも、強い共感は支えになる一方で、心の消耗につながりやすいと指摘されていて、看護や介護など人と関わる職種ではよく話題になります。
優しい看護師ほど、相手に寄り添おうとする気持ちが強く、そのぶん自分の心のエネルギー消費も大きくなってしまう仕組みを抱えています。
心の限界を見逃さないための視点
共感疲労は、ある日突然やってくるというより、少しずつ蓄積していくことが多いです。
最近よく眠れない、仕事に向かう前から強いだるさを感じる、些細なことで涙が出そうになるなど、ささやかな変化に気付けると早めのケアにつながります。
忙しい毎日の中で、自分の状態を振り返る時間をほんの少しだけでも意識してとってみることも一つの方法です。
「もう限界だから弱っている」のではなく、「それだけ真剣に向き合ってきたからこそ疲れている」と捉え直してみると、気持ちの受け止め方も少し変わってきます。
看護の理想と現実のギャップが生む心の痛み

看護師を目指した頃に思い描いていた理想の姿と、今目の前にある現実との間に、戸惑いを感じている人は多いと思います。
一人一人の患者に丁寧に向き合いたい気持ちがあっても、時間や人手の制約の中で妥協せざるを得ない場面が続くと、心の中に小さな痛みが積もっていきます。
ここでは、理想と現実のギャップがどのように心を疲れさせ、辞めたい気持ちにつながっていくのか、いくつかの場面を通して見つめていきましょう。
理想を持つ人ほど苦しくなりやすい背景
学生の頃や新人の時期には、「患者に寄り添う看護をしたい」「その人らしさを大切にしたい」といった思いを強く持っていた人も多いはずです。
その理想があるからこそ勉強も頑張れたし、厳しい実習を乗り越えてこられたという声もよく聞かれます。
けれど実際の現場では、ベッド数や業務量、時間に追われるスケジュールの中で、理想通りの関わりができない日も珍しくありません。
理想を大切にしている人ほど、「本当に自分がやりたかった看護はこれなのか」と自分に問いかける場面が増え、苦しさを感じやすくなります。
時間に追われる中で生まれる無力感
バイタルサインの測定や処置、記録、申し送りなど、やるべきことが山のようにある一日の中で、ふと時計を見ると、想像していたよりも時間が過ぎていることがあります。
本当はゆっくり話を聞きたい患者がいても、「この後の検査の準備もしないと」と考えると、その場を離れざるを得ないこともあります。
「もっと寄り添いたかったのに」「あの一言をかける余裕があれば」と振り返っては、自分の中に小さな無力感が積み重なっていきます。
この無力感が長く続くと、自分の存在意義や仕事の意味まで揺らいでしまい、辞めたい気持ちが少しずつ強くなっていきます。
思うようなケアができない時のつらさ
忙しい時間帯やスタッフが少ない日には、清潔ケアやポジショニング、声かけなど、本当は丁寧に行いたいケアを簡略化せざるを得ない場面が出てきます。
患者の表情を見て、「本当はもっと楽な体勢にしてあげたい」「ゆっくり話を聞きたい」と感じていても、他の業務が頭の中を埋めていて、思うように動けないこともあります。
そうした日が続くと、「自分は流れ作業のようにしか関われていないのではないか」と感じてしまい、自分の看護に自信を持てなくなっていきます。
理想のケアと現実のケアの差に気付くたびに、胸の奥がひりひりするようなつらさが残り、それが辞めたい気持ちと結び付きやすくなります。
理想を捨てられない人の心の揺れ
理想と現実のギャップに気付いたとき、「理想を下げれば楽になれるかもしれない」と考えることもあります。
それでも、心のどこかで「このままで良いのかな」と問いかけてしまうのは、看護師として大切にしたい軸をまだ手放したくないからかもしれません。
周りを見渡すと、忙しさの中でも小さな工夫を続けている同僚や、短い時間で精一杯の声かけをしている先輩の姿が目に入ることもあります。
そうした姿に励まされる一方で、「自分はうまくできていないのでは」と不安になることもあり、心の揺れは簡単には落ち着きません。
理想を捨てきれないからこそ感じるこの揺れは、看護に真剣に向き合ってきた証拠でもあり、同時に、今の働き方を見直すタイミングを教えてくれるサインでもあります。
優しい看護師が辞めるか迷うときの心理変化

辞めたい気持ちが浮かんでは消え、気付けば長いあいだ心の中で同じことをぐるぐる考えてしまうことがあります。
優しい人ほど、感情を乱したくなくて表には出さずに、静かに悩み続けてしまいがちです。
ここでは、辞めるかどうか迷っている時に心の中で起きている変化をたどりながら、自分の状態を少し客観的に見つめ直していきましょう。
辞めたい気持ちと続けたい気持ちの共存
ある日突然「もう無理」と感じたわけではなく、少し前から「このままで良いのかな」と思い始めていた人も多いと思います。
仕事中につらい場面が重なると、「やっぱり辞めたい」と気持ちが傾きますが、患者の笑顔や感謝の言葉に触れた瞬間、「やっぱり続けたい」と揺り戻されることもあります。
このふたつの気持ちが同時に存在している状態は、決しておかしいわけではなく、今の状況に真剣に向き合っている証拠とも言えます。
気持ちが揺れる自分を責めるより、「今は両方の感情を抱えているんだな」と受け止めてみると、少し心の余白が生まれます。
心が静かに限界を迎えるサイン
辞めるか迷っている時期には、大きな出来事がなくても、心や体にささやかなサインが現れやすくなります。
寝付きが悪くなる、朝起きた瞬間から憂うつさを感じる、仕事のことを考えるとお腹が痛くなるなど、これまでとは違う変化に気付くこともあります。
感情の面では、涙もろくなったり、逆に何を見ても何も感じにくくなったりと、自分でも戸惑うような揺れ方をすることがあります。
こうしたサインは、心が静かに限界に近付いている合図でもあるので、「気のせい」と片付けずに一度立ち止まって見つめてみることが大切です。
周囲に本音を言いづらい理由
本当は「つらい」「しんどい」と伝えたいのに、いざ口に出そうとすると言葉が詰まってしまうことがあります。
同僚も忙しそうにしている姿を見ると、「自分だけ弱音を吐いているようで気が引ける」と感じてしまう人も多いです。
また、頑張り屋だと思われているほど、「こんなことを言ったらがっかりされるのでは」と心配になり、本音を飲み込んでしまいやすくなります。
結果として、誰にも相談できないまま一人で抱え込み、夜になると頭の中で同じ考えが何度も繰り返されてしまうという状態になりやすいです。
迷いが長く続くと心に起きる影響
辞めたい気持ちと続けたい気持ちの間で揺れ続けていると、決断できない自分を責めてしまうことがあります。
「優柔不断なのではないか」「結局何も変えられていない」と感じるほど、自己肯定感が少しずつ下がっていきます。
その一方で、決められないまま時間だけが過ぎていくことに焦りを覚え、余計に心が落ち着かなくなることもあります。
迷いが長く続いていると感じた時は、白か黒かをすぐに決めるのではなく、自分の本音や体の状態を書き出してみるなど、気持ちを整理する小さな工夫をしてみることも一つの方法です。
優しい人が無理をしない働き方を考える視点

今の職場で限界を感じていても、「看護師を続けたい気持ちもどこかにある」と感じることは珍しくありません。
その間で揺れているときに役立つのが、今の働き方だけでなく、別のスタイルも一度眺めてみる視点です。
ここでは、優しい人が自分の心をすり減らし過ぎないために、どんな働き方や環境が選択肢になり得るのかを一緒に整理していきましょう。
負担の少ない分野を選ぶという選択肢
看護師としての仕事は、病棟勤務だけではありません。
外来やクリニック、企業看護職、訪問看護、健診センターなど、患者との関わり方や勤務形態が異なる分野がいくつもあります。
急性期病棟で心身の負担が大きいと感じているなら、もう少し落ち着いた環境に身を置いてみることで、自分の優しさを保ちながら働き続けやすくなる場合もあります。
どの分野が合いそうか分からないときは、求人情報やインタビュー記事を眺めて、雰囲気を想像してみるだけでも一つの手がかりになります。
自分に合う環境を探すための基準
職場を選ぶとき、「家から近いかどうか」「給与」だけでなく、心の負担に関わる条件も意識してみることが大切です。
例えば、一人当たりの受け持ち患者数、スタッフ同士の雰囲気、急変の頻度、教育や相談の体制など、自分が安心して働けるポイントを書き出してみる方法があります。
優しい人ほど、「選ぶ」というより「与えられた環境に合わせる」ことを頑張ってしまいがちです。
あらかじめ自分なりの基準を用意しておくと、次のステップを考えるときに、後悔しにくい選び方がしやすくなります。
働き方を変えると心が軽くなる理由
夜勤を減らしたり、非常勤やパートに切り替えたりするだけでも、体と心の負担が変わったという話はよく聞かれます。
勤務時間が少し整うことで、睡眠や食事、趣味の時間を取り戻せるようになり、気付いたら表情が柔らかくなっていたという人もいます。
働き方を変えることは、「弱くなった」というより、自分の心と体に合う形を選び直す行動とも言えます。
一度、今の生活で無理をしているところがどこなのか、紙に書き出して眺めてみると、変えたい部分が見えやすくなります。
少し距離を置くことで見えるもの
疲れが蓄積しているときには、一度現場から離れてみる選択も視野に入れてみる価値があります。
休職や、思い切ってまったく別の業種で働いてみた後に、「やっぱり看護が好きだ」と気付く人もいれば、「違う形で人を支える道も自分に合っている」と感じる人もいます。
距離を置くことで初めて、自分がどれだけ無理をしていたか、何を大事にしたいと感じていたかがはっきりすることがあります。
一時的に離れてみるという選択は、全てを投げ出すことではなく、自分の心と向き合い直すための時間をつくる行動の一つと捉えてみても良いかもしれません。
辞める以外の道も見えるようにするために

辞めたい気持ちが強くなってくると、目の前には「辞めるか続けるか」という二択しかないように感じてしまうことがあります。
けれど、心の負担を軽くしながら働き方や環境を少しずつ変えていく道も、本当は複数存在しています。
ここでは、今すぐ大きな決断をしなくても、自分の心を守りながら選択肢を増やしていくための考え方や行動を一緒に整理していきます。
心理的な負担を和らげる考え方
「辞めたいと思う自分は弱い」と感じてしまうと、気持ちがさらに重くなってしまいます。
まずは、今の環境や状況がつらさを生みやすい状態にあるという視点を持ってみることが大切です。
例えば、「自分一人が頑張れば何とかなる」という考えから、「この体制では誰がやっても疲れてしまうかもしれない」と少し引いた目線で眺めてみるだけでも、心の圧迫感が変わります。
自分の性格や優しさだけを原因とするのではなく、職場の体制や役割分担、人員配置といった要素も含めて考えてみることで、心理的な負担を少し軽くしていくことができます。
助けを求めることが難しい人ほど大切な視点
普段から周囲を気遣っている人ほど、「これ以上頼ると迷惑ではないか」と考えてしまい、なかなか助けを求められないことがあります。
ただ、看護の現場で働き続けるためには、一人で抱え込まないことがとても大切です。
「全部を話さなくてはいけない」と思うとハードルが高く感じられるので、「最近少ししんどくて」と一言だけでも伝えてみるところから始めてみるのも一つの方法です。
小さなサインを周囲に出していくことで、自分自身も「相談しても良い立場だ」と認めやすくなり、気持ちの負担が少し和らいでいきます。
心を守るために必要な行動とは
気持ちが追い詰められているときほど、「休む」「手を抜く」といった行動に強い罪悪感を持ちやすくなります。
しかし、心や体が限界に近付いているサインが出ている時には、意識的に負担を減らす行動を取ってみることがとても大切です。
具体的には、有給休暇を一日だけでも使ってみる、信頼できる人に業務の一部を相談してみる、業務外の時間に仕事の話をし過ぎないよう意識してみるなど、小さな工夫から始めることができます。
心を守る行動を積み重ねていくと、「常に全力で頑張らないといけない」という思い込みから、少しずつ離れていくことができます。
経験者の声から見える安心材料
実際に、限界を感じて一度職場を離れたり、部署を異動したりした看護師の中には、「あの時相談して良かった」と振り返る人も多くいます。
負担の少ない部署に変わったことで、もう一度患者との関わりを前向きに感じられるようになったという話や、非常勤に切り替えてから体調が安定し、穏やかに働けるようになったという声もよく聞かれます。
こうした経験談に触れると、「辞めるか続けるか」だけでなく、「形を変えて続けていく」という道も確かにあるのだと実感しやすくなります。
自分に合いそうな選択肢を探すために、転職サイトや看護師向けの情報メディアでインタビュー記事を読んでみるのも、さりげなく安心材料を集めていく一つの方法です。
辞める決断をする時に大切にしてほしいこと

いろいろ考えた末に、「もう限界かもしれない」と感じたとしても、いざ辞める決断をするとなると足が止まってしまう人は多いです。
周りへの影響や将来への不安を思い浮かべるほど、気持ちは揺れて当たり前だと思います。
ここでは、辞めるという選択を現実的に考え始めた時に、大事にしておきたい視点や心構えについて、少しずつ整理していきます。
心の声を無視しないための視点
「このまま続けるのはつらい」と感じたとき、その気持ちを押し込めて働き続ける人は少なくありません。
ただ、心や体からのサインを無視し続けると、ある日大きく崩れてしまうこともあると、多くの看護師が振り返っています。
頭で考えた理屈よりも、出勤前に感じる重さや、職場に向かう足取りの感覚は、今の状態を教えてくれる大切な情報です。
「逃げたい」と感じた自分を責める前に、一度立ち止まって、その声に耳を傾けてみる時間を持つことが大事な第一歩になります。
罪悪感を和らげる考え方
辞めることを考えたとき、「周りに迷惑をかけてしまうのでは」「自分だけ楽をしようとしているようで申し訳ない」と感じる人は多いです。
その気持ちの根っこには、今まで一緒に働いてきた仲間への思いや、患者を置いていくような感覚への戸惑いがあります。
ただ、無理を重ねて心身を壊してしまうと、自分だけでなく、結果的に周囲にも負担がかかってしまうことがあります。
「元気な状態で働ける場所を探すことも、一つの責任の取り方」と捉え直してみると、罪悪感が少し和らぎやすくなります。
未来の選択が広がる理由
今の職場を辞めることは、全ての可能性を失うことではなく、新しい選択肢に目を向け直すきっかけにもなります。
転職先で自分に合った働き方を見つけた人や、いったん医療現場を離れてから、別の形で人と関わる仕事に就いた人の話も多く聞かれます。
将来を考えると不安が湧いてくるのは自然なことですが、「今より少し心が楽になる道」を探してみるだけでも、見える景色が変わっていきます。
選択肢は一つではないと意識しておくと、辞めるかどうかを考える時の息苦しさが少し軽くなります。
自分を守るという優しさの意味
看護師として働いていると、どうしても「誰かのために」という視点を優先しがちになります。
けれど、自分の心と体をすり減らし続けた先には、余裕を失い、誰かに優しくする力さえ弱くなってしまうことがあります。
自分を守るために環境を変えたり、一度立ち止まったりすることは、わがままではなく、長い人生を考えた時の大切な選択の一つです。
自分を大切に扱うことを通して、これから先も誰かに向ける優しさを守っていくことができる、という視点も心の片隅に置いてみてください。
まとめ
看護師は優しい人ほど、共感の強さや責任感の重さから、心の負担を抱えやすい仕事だと感じます。
辞めたい気持ちの裏側には、怠け心ではなく、理想と現実のギャップや、自分を後回しにしてきた時間の長さが隠れている場合が多いです。
だからこそ、自分だけを責めるのではなく、職場の環境や働き方、人員体制といった「状況そのもの」を見つめ直してみる視点が大切です。
働く場所や分野を変えたり、負担の少ない働き方を選んだり、一度距離を置いて自分の心と向き合ってみることも、一つの選択肢として考えてみてほしいところです。
自分を守るための決断は、これまで大切にしてきた優しさを、これから先も大事に使っていくための準備にもつながっていきます。
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