辛い現実から逃げたいあなたへ。逃げるのは「生存本能」?心の限界を示すサインと自分を守る心理学

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「もう、限界かもしれない……」

ふとした瞬間に、そんな思いが胸をよぎることがあります。

立ち止まりたいのに、立ち止まることすら許されないような空気。

それでも必死に毎日をやり過ごしている自分に、「どうして、こんなにも現実から逃げたいんだろう」
そんな疑問が浮かぶこともあるでしょう。

けれど、その気持ちは、あなたが決して弱いから生まれたものではありません。

心理学の視点で見ると、「逃げたい」という感情は、心と脳が危険を察知したときに自然に起こる反応です。

心が壊れてしまわないよう、あなた自身を守ろうとする、生存本能のサインとも言えます。

辛い現実から逃げたいという感情は、内側からの大切なメッセージ。

この記事では、「辛い現実から逃げたいあなたへ」向けて、その感情の正体と心理学的な背景、そして「逃げたその先」で心がどのように回復していくのかを、静かに紐解いていきます。

まずは、「逃げたい」と感じることが、なぜ決して甘えではないのか。
その理由から、一緒に見つめていきましょう。

 

 

  1. 「逃げたい」と感じるのは甘えではない。心が発するSOS
    1. 「逃げたい」は心が危険を知らせる警報になる
    2. 「甘え」と決めつけるほど、心は追い込まれていく
    3. 逃げたい気持ちを否定しないと、次の選択肢が見えてくる
  2. なぜ「逃げたい」と思うのか。背景にある心理と脳の仕組み
    1. 脳の警戒システムが強く働くと「回避」が前に出てくる
    2. 刺激に敏感な気質は、消耗の早さにつながりやすい
    3. 「逃げる」は立派なコーピングの一つとして働く
  3. 我慢し続けるリスク。心が限界を超えた時に出る「体のアラート」
    1. 眠りと食欲が崩れたら、心が先に疲れていることがある
    2. 緊張が抜けないと、体が常に戦闘モードになる
    3. 思考の変化は、限界が近いサインとして現れやすい
  4. 現実逃避と「心の回復」の決定的な違いとは
    1. 現実逃避は「感じたくないもの」を遠ざける動き
    2. 心の回復は「安全を確保して整える」動き
    3. 違いを分ける鍵は「戻るための小さな設計」があるか
  5. 心理学的に見た「正しい逃げ方」と自分を守る安全地帯
    1. 物理的に離れる。いちばん分かりやすい安全の確保
    2. 情報を遮る。脳を休ませるための静かな逃げ方
    3. 心理的な境界線を引く。責任と感情を分けて持つ
  6. 「逃げていい」と自分を許すための自慈心(セルフコンパッション)
    1. 自分に優しくできないのは、心が厳しさに慣れてきたから
    2. 自慈心は、現実を変える前に心の扱いを整える方法
    3. 今日できる小さなワーク。自分への言葉を一段だけ柔らかくする
  7. 逃げたその先にある景色。心に余白ができた時、人生は再起動する
    1. 最初に戻るのは「気力」ではなく「感覚」かもしれない
    2. 余白ができると「選べること」が増えていく
    3. 再起動は「元に戻る」ではなく「守り方を覚える」こと
  8. まとめ:あなたの「逃げたい」は、より良く生きたいという願い
  9. 📚 参考文献(APA形式)

「逃げたい」と感じるのは甘えではない。心が発するSOS

「逃げたい」と思うとき、いちばん苦しいのは現実そのものよりも、そう感じてしまう自分を責めてしまう時間かもしれません。

それでも心は、限界を超える前に小さな合図を出します。

「逃げたい」という感覚は、弱さではなく、心が生き延びるために働かせる生存本能の一部として現れることがあります。

この記事の最初の章では、その合図を「弱さ」ではなく、守るための反応として整理していきます。

この章で大切なこと

  • 逃げたい気持ちは、心が限界に近づいていることを知らせる合図であること。
  • 甘えと決めつける自己否定が、回復をさらに遅らせてしまうこと。
  • 最初の違和感に気づけた時点で、すでに守る一歩は始まっていること。

 

「逃げたい」は心が危険を知らせる警報になる

人は強いストレスが続くと、頭の中で同じ考えがぐるぐる回りやすくなります。

仕事や人間関係の場面で、言葉を受け止めるだけで精一杯になり、帰宅後に何もできなくなることもあります。

そのとき心は、気合いや根性で踏ん張るより先に、距離を取ろうとします。

それが「逃げたい」という感覚として現れることがあります。

ここで大事なのは、逃げたい気持ちが出るのは、現実に向き合う力がないからではなく、今の負荷が高すぎるという情報を体が受け取っている可能性がある点です。

現実逃避という言葉が頭に浮かんでも、まずは警報が鳴っているだけかもしれない。

そう考えると、少しだけ息が入りやすくなります。

 

「甘え」と決めつけるほど、心は追い込まれていく

逃げたい気持ちが出た瞬間に、甘えていると決めつけると、心は二重に苦しくなります。

現実がつらい。
それに加えて、自分は情けないという自己否定が積み重なる。

すると、休むことや助けを求めることまで悪いことのように感じやすくなります。

よくある相談でも、限界の手前まで頑張った人ほど、休む許可が出せずに崩れてしまうことがあります。

逃げたい気持ちを押し込めるほど、体のほうが別の形で合図を出すこともあります。

眠れない。
食欲が落ちる。
涙が出やすくなる。
集中できない。

だからこそ、最初の違和感を甘えとして片づけず、心のSOSとして扱うことが大切です。

 

逃げたい気持ちを否定しないと、次の選択肢が見えてくる

逃げたい気持ちをそのまま認めることは、すぐに逃げる決断をすることと同じではありません。

むしろ、いま何が苦しいのかを見つける入口になります。

たとえば、誰かの視線が怖いのか。
失敗が許されない空気がつらいのか。
休めない状況が続いているのか。

理由が少し見えるだけで、取れる対策は変わってきます

距離を置く。
休息を確保する。
話せる人を探す。
環境を整える。

そのための土台になるのが、逃げたいという感覚を敵にしない姿勢です。

心は壊れてから守るのでは遅いことがあります。

だからこそ、壊れる前の小さな合図に気づけた時点で、もう大切な一歩が始まっています。

 

 

なぜ「逃げたい」と思うのか。背景にある心理と脳の仕組み

逃げたい気持ちは、性格の問題ではなく、心と脳が負荷を測った結果として現れることがあります。

人は危険を感じたとき、冷静に考える前に、まず身を守ろうとします。

この章では、「逃げたい」という感覚が、どんな仕組みで生まれやすいのかを、心理学の視点から静かに整理していきます。

この章で大切なこと

  • 逃げたい感覚は、脳の警戒システムが強く働いた結果として起こること。
  • 感情のハイジャックが起きると、意志より先に不安や回避が前に出ること。
  • 逃げる選択は、回復のための立派なコーピングになり得ること。 

 

脳の警戒システムが強く働くと「回避」が前に出てくる

強いストレスが続くと、脳の中で警戒を担う部分が過敏になりやすくなります。
その中心にあるのが扁桃体です。

扁桃体は、危険をいち早く察知する役割を持っています。
命を守るためには、とても大切な働きです。

ただ、この反応が強くなりすぎると、考える前に体が反応してしまうことがあります。

心理学では、この状態を感情のハイジャックと呼ぶことがあります。
危険だと判断した瞬間、思考より先に不安や恐怖が前に出てしまう状態です。

このとき、人は怠けているわけでも、弱くなったわけでもありません。
脳が全力で守ろうとしているだけなのです。

職場の通知を見るだけで胸が苦しくなる。
特定の場所に近づくだけで体が重くなる。
そうした反応は、意志では止めにくいことが多い。

逃げたい気持ちは、感情のハイジャックが起きているサインとして現れることがあります。

 

刺激に敏感な気質は、消耗の早さにつながりやすい

同じ出来事でも、受け取る刺激の量には差があります。

音や表情、空気の変化に気づきやすい人ほど、心の処理量が増えやすい。

周囲が気にしていない一言が、頭の中で何度も再生されることもあります。

この状態が続くと、休んでいるつもりでも回復しにくくなります。

休日なのに疲れが抜けない。
考え事が止まらない。

気づかないうちに、常に警戒したまま過ごしていることもあります。

ここで大切なのは、敏感さそのものが問題なのではないという点です。

環境との相性が合わない状態が続くと、心が先に疲れてしまう。

逃げたい気持ちは、そのズレを知らせる合図として出てくることがあります。

 

「逃げる」は立派なコーピングの一つとして働く

心理学では、ストレスへの対処の仕方をコーピングと呼びます。

対処と聞くと、頑張ることや耐えることを思い浮かべやすいかもしれません。

けれど、距離を取ることも、れっきとした対処戦略です。

危険から離れる。
刺激を減らす。
負荷が下がる場所へ移動する。

これらは、逃げではなく、逃避コーピングと呼ばれる選択です。

積極的に自分を守るための動きとして位置づけられています。

真面目な人ほど、この選択を自分に許しにくい傾向があります。

まだやれるはず。
ここで逃げたら負けだ。

そう考えて踏みとどまるほど、心は出口を失っていきます。

逃げたい気持ちは、対処の選択肢を切り替える時期が来たことを知らせるサインでもあります。

その感覚に気づけた時点で、すでに回復への一歩は始まっています。

次は、我慢を続けたときに心と体に出やすいアラートを、より具体的に見ていきます。

 

 

我慢し続けるリスク。心が限界を超えた時に出る「体のアラート」

逃げたい気持ちを押し込めていると、心は静かに耐え続けます。

ただ、耐える力には限りがあります。

限界が近づくと、心だけで抱えきれなくなり、体のほうに合図が出やすくなります。

この章では、よくあるアラートの形を整理しながら、早めに気づくための見方を一緒に整えていきます。

この章で大切なこと

  • 心の限界は、眠りや食欲、体の緊張として先に現れやすいこと。
  • 動けている状態でも、回復しているとは限らないこと。
  • 小さなアラートに気づくことが、大きな崩れを防ぐ鍵になること。 

 

眠りと食欲が崩れたら、心が先に疲れていることがある

最初に出やすいのは、睡眠の変化です。

寝つけない。
夜中に目が覚める。
眠っても疲れが取れない。

こうした揺れが続くと、日中の集中力が落ち、さらに自分を責めやすくなります。

すると、頭の中が休まらず、また眠れない。

そんな循環に入りやすくなります。

食欲の変化も同じように大切なサインです。

食べる気が起きない。
逆に、甘いものや強い味ばかり欲しくなる。

これも意思の問題ではなく、疲れた心を体が支えようとしている反応として起こることがあります。

調子の悪さを根性で押し戻そうとすると、アラートは小さくならず、むしろ形を変えて残りやすい。

だから、眠りと食欲が揺れた時点で、心の負荷を疑ってよいのです。

 

緊張が抜けないと、体が常に戦闘モードになる

肩や首がずっとこっている。
歯を食いしばっている。
呼吸が浅い。
胃が重い。

こうした状態が続くとき、体は休んでいるつもりでも休めていないことがあります。

家にいるのに、どこか落ち着かない。
スマホを見続けてしまう。
静かなはずなのに、音に敏感になる。

このあたりは、危険に備えるモードが長引いているときに起こりやすい反応です。

とくに真面目な人は、緊張したままでも動けてしまうことがあります。

動けるから大丈夫だと思ってしまう。

でも、動けることと回復していることは別です。

気づいたときには、何もしたくない状態に落ちてしまう。

そうなる前に、体の張りつめ方に目を向けることが大切です。

 

思考の変化は、限界が近いサインとして現れやすい

体のサインと同時に、考え方のほうも変わりやすくなります。

小さなミスが大きな失敗に見える。
相手の一言をずっと引きずる。
未来の悪い場面ばかり浮かぶ。
頭の中で反省会が終わらない。

こうした変化が出ると、日常の判断がしんどくなります。

返信ひとつが重い。
予定を決めるだけで疲れる。

その結果、先延ばしが増え、現実がもっと怖く見えてしまうことがあります。

ここで無理に前向きになろうとすると、かえって苦しくなることがあります。

まず必要なのは、気持ちの問題として片づけず、負荷が積み上がった結果として扱うことです。

そして、いま出ているアラートを否定せず、少しでも負荷を下げる方向へ舵を切ること。

その選択が、心を守る現実的な一歩になります。

 

 

現実逃避と「心の回復」の決定的な違いとは

逃げたい気持ちが強いときほど、逃げること自体が怖く感じることがあります。

このまま崩れてしまうのではないか。
戻れなくなるのではないか。

そんな不安がよぎるのも自然です。

ただ、現実逃避と心の回復は、似ているようで目的が違います。

この章では、逃げることを安全に理解するために、その違いを言葉にしていきます。

この章で大切なこと

  • 現実逃避は苦しさを遠ざける動きであり、回復とは目的が異なること。
  • 回復には、安全を確保し、心を整える意図が含まれていること。
  • 休みの中に小さな枠を作ることで、罪悪感が生まれにくくなること。 

 

現実逃避は「感じたくないもの」を遠ざける動き

現実逃避は、いま感じている苦しさを、いったん見ないようにする動きです。

つらい出来事や、怖い評価や、責められる予感。

それらに触れた瞬間に体が固まりそうになると、心は距離を取ろうとします。

だから、動画を見続けてしまう。
寝て過ごしてしまう。
何も考えない時間に逃げ込みたくなる。

こうした行動は、悪ではありません。

ただ、逃避だけが続くと、苦しさの元が整理されないまま残ることがあります。

残ったままの不安は、ある日まとめて膨らみやすい。
そのため、現実逃避は一時的には楽でも、長く続くと心が休まらない形になることがあります。

 

心の回復は「安全を確保して整える」動き

回復は、現実を直視する強さを無理に作ることではありません。

まず安全を確保して、心と体の緊張を下げることです。

たとえば、
怖い相手から距離を取る。
連絡の頻度を下げる。
刺激の多い情報から離れる。

こうした選択には、目的があります。

自分を甘やかすためではなく、回復の土台を作るためです。

心が落ち着くと、同じ現実でも受け止め方が変わることがあります。

責められる気がしていた言葉が、ただの忙しさの表れに見える。
絶望に見えた状況に、選び直せる余地が見える。

回復は、心を守りながら視界を取り戻す動きです。

 

違いを分ける鍵は「戻るための小さな設計」があるか

現実逃避と回復の境目は、とてもあいまいです。

同じように休んでいても、心が軽くなるときと、焦りが増えるときがあります。

その違いを分ける一つの鍵は、休みの中に小さな設計があるかどうかです。

今日はここまで休む。
この時間は通知を切る。
明日は一つだけ整える。

そんな小さな枠があると、休みが安心につながりやすくなります。

逆に、終わりが見えない休みは、罪悪感を呼び込みやすい。
罪悪感が増えると、また逃げたくなる。

この循環が強まると、回復の入り口が見えにくくなります。

だからこそ、休むことに意味を持たせるより先に、安全の枠をそっと置く。

それが、逃げることを回復につなげる現実的な工夫になります。

 

 

心理学的に見た「正しい逃げ方」と自分を守る安全地帯

逃げたい気持ちが出たときに大切なのは、勢いで消えてしまうことではありません。

自分を守りながら、負荷を下げる道を選び直すことです。

そのためには、逃げ方を少しだけ整理して、安心できる場所を先に確保するのが助けになります。

この章では、現実からの撤退を回復につなげるために、具体的な安全地帯の作り方を一緒に整えていきます。

この章で大切なこと

  • 物理的な距離は、心を守るための有効な手段になりやすいこと。
  • 情報を減らすことは、脳を休ませる現実的な逃げ方であること。
  • 安全地帯は、場所だけでなく心の中にも作れること。

物理的に離れる。いちばん分かりやすい安全の確保

心が追い詰められているとき、いちばん効果が出やすいのは、刺激の発生源から距離を取ることです。

会うと消耗する相手と会わない。
緊張が強い場所に行かない。

短時間でも、その選択を入れるだけで体の力が抜けることがあります。

ここで大事なのは、距離を取ることが敗北ではないという点です。

避けるのではなく、守るための移動です。

たとえば、職場なら席を変える。
別のフロアに行く。
在宅の比率を増やす。
学校なら休む日を作る。

保健室や別室など、息ができる場所を確保する。

物理的な距離は、心に余白を作る最短ルートになりやすい。

その余白ができてから、ようやく状況を考える力が戻ってくることもあります。

 

情報を遮る。脳を休ませるための静かな逃げ方

現実の刺激は、目の前の出来事だけではありません。

通知。
ニュース。
他人の投稿。
評価の気配。

こうした情報が途切れずに入ると、脳はずっと警戒を続けやすくなります。

だから、情報を遮ることは回復に直結します。

通知を切る。
見る時間を決める。
目に入る場所からアプリを外す。

この程度でも、体の緊張が下がる人は多いです。

よくある相談でも、眠れない時期に情報量を減らすだけで、寝つきが少し良くなることがあります。

ここで意識したいのは、遮断を完全にやり切ろうとしないことです。

できる範囲で十分です。

負担を減らす行動が増えるほど、逃げたい気持ちは少しずつ落ち着いていきます。

 

心理的な境界線を引く。責任と感情を分けて持つ

距離を取れない状況もあります。

家族。
職場。
関係を急に切れない相手。

そんなときに役立つのが、心理的な境界線です。

境界線とは、相手の感情や機嫌を、自分の責任として背負いすぎないための線引きです。

たとえば、相手が不機嫌でも、それを直す役目を引き受けない。
相手の言葉が荒くても、自分の価値まで決めつけない。

そういう切り分けです。

ここで効きやすいのは、短い言葉で心の中に区切りを作ることです。

これは相手の都合かもしれない。
いまの自分は疲れている。
今日はここまででよい。

この小さな区切りがあると、同じ出来事でも飲み込まれにくくなります。

安全地帯は場所だけではなく、心の中にも作れます。

境界線を引くほど、逃げたい気持ちは、破壊的な衝動ではなく守る知恵として働きやすくなります。

 

 

「逃げていい」と自分を許すための自慈心(セルフコンパッション)

逃げ方を整えても、心の奥に罪悪感が残ることがあります。

休んでいるのに落ち着かない。
これでいいのかと自分を責めてしまう。

そんなときに役立つのが、自慈心という考え方です。

自分に甘くするというより、苦しいときの自分を適切に扱うための技術として見ていきます。

この章で大切なこと

  • 自分に厳しくしてきた背景には、生き延びるための理由があったこと。
  • 自慈心は、現実を変える前に心の扱いを整える考え方であること。
  • 言葉を一段だけ柔らかくすることが、回復の入口になること。 

 

自分に優しくできないのは、心が厳しさに慣れてきたから

苦しいときほど、自分に厳しい言葉を向けてしまうことがあります。

まだ頑張れるはず。
これくらいで弱音を吐くな。

そう言い聞かせると、一時的には動けるかもしれません。

ただ、そのやり方が続くと、心の中に休める場所がなくなります。

自分に優しくできないのは、人として欠けているからではありません。

これまで厳しさで乗り切ってきた分、優しさの使い方が分からなくなっているだけのことも多いのです。

まずは、厳しさが自分を守る道具だった時期があったと認めるところからで十分です。

 

自慈心は、現実を変える前に心の扱いを整える方法

自慈心は、つらい現実を消す魔法ではありません。

それでも、現実に向き合う前に心の扱いを整える力があります。

たとえば、同じ失敗でも、自分を責め続けると回復は遅くなりやすい。

一方で、苦しかったと認め、今は休むと決めると、脳の緊張が下がりやすくなります。

結果として、次に取れる行動が少し増えることがあります。

ここで大事なのは、優しい言葉を無理に言い聞かせないことです。

苦しい。
今日は重い。

それで十分です。

事実を静かに認めるだけでも、心は置き去りにされにくくなります。

 

今日できる小さなワーク。自分への言葉を一段だけ柔らかくする

自慈心は、大きく変わることを目標にしなくて大丈夫です。

まずは、自分に向ける言葉を一段だけ柔らかくすることから始められます。

たとえば、心の中で責める声が出たときに、次の形へ言い換えます。

自分はだめだ。
ではなく、いまは余裕がない。

自分は弱い。
ではなく、負荷が高すぎる。

こうした言い換えは、気休めではありません。

状況を正確に捉えるための言葉です。

正確になるほど、罪悪感が少し下がり、回復の手がかりが見えやすくなります。

そして、心が少し落ち着いたときに、次の選択を選び直せる余地が生まれます。

 

 

逃げたその先にある景色。心に余白ができた時、人生は再起動する

逃げることを選んだあと、心の中に別の不安が生まれることがあります。

このまま戻れなかったらどうしよう。
何もできない自分が続いたらどうしよう。

けれど、回復は一直線ではなくても進みます。

心に余白が戻ると、同じ人生でも見える景色が少し変わっていきます。

この章では、逃げたあとに起こりやすい変化を、静かに確かめていきます。

この章で大切なこと

  • 回復は、やる気より先に感覚の変化として始まることが多いこと。
  • 余白が戻ると、選べる行動が少しずつ増えていくこと。
  • 再起動とは、元に戻ることではなく、守り方を覚えることでもあること。 

 

最初に戻るのは「気力」ではなく「感覚」かもしれない

回復というと、元気ややる気が戻ることを想像しやすいです。

でも実際には、最初に戻るのはもっと小さな感覚のことがあります。

朝、光がまぶしすぎない。
呼吸が少し深くなる。
食べ物の味が少し分かる。

帰り道に空を見上げる余裕が一瞬だけ生まれる。

そういう変化です。

この小さな回復は、弱いようでとても大切です。

心が危険に備えて固まっていた状態から、ほんの少し緩む合図だからです。

逃げたい気持ちが強い時期は、体が常に警戒し、世界が鋭く感じられやすい。
その警戒が少し下がると、心は外の情報を安全に受け取り直せるようになります。

もし、まだ前向きになれなくても、感覚が少し戻ってきたなら、それは回復の始まりとして十分意味があります。

 

余白ができると「選べること」が増えていく

心が苦しいときは、選択肢が一つに見えやすくなります。

耐えるか。
逃げるか。

その二択しかないように感じることがあります。

でも余白が少し戻ると、その間の選択が見えてきます。

今日は連絡を返さない。
明日は短い返事だけにする。
会う時間を短くする。
距離を取る相手を一人だけ決める。

こうした小さな選択は、人生を大きく変える前に、心を守る現実的な手順になります。

選べることが増えると、無力感が少し薄れます。

無力感が薄れると、また次の一手が考えられる。

この循環が生まれると、回復は加速ではなく安定として進みやすくなります。

逃げたその先にあるのは、突然の成功や劇的な変化ではなく、選び直せる日々の手触りです。

 

再起動は「元に戻る」ではなく「守り方を覚える」こと

回復すると、以前の自分に戻らなければいけないと感じることがあります。

前と同じように働けるように。
前と同じように笑えるように。

でも、再起動は必ずしも元に戻ることではありません。

むしろ、これ以上壊れないように守り方を覚えることです。

限界のサインを無視しない。
無理の量を増やしすぎない。

苦しいときに助けを借りる選択を残しておく。

そういう守り方を身につけるほど、逃げたい気持ちは暴れるものではなく、早めのブレーキとして働きやすくなります。

そして、守れるようになると、挑戦の形も変わっていきます。

大きな一歩ではなく、小さな一歩で十分だと分かる。
完璧にやらなくても続けられると分かる。

その理解が、心を安定させます。

逃げた経験は終わりではなく、人生の扱い方を学び直す入り口になることがあります。

 

 

まとめ:あなたの「逃げたい」は、より良く生きたいという願い

辛い現実から逃げたいと感じるのは、弱さではなく心と脳が危険を知らせる自然な反応です。

我慢を続けるほど体と心にアラートが出やすくなり、回復の道が見えにくくなることがあります。

だからこそ、距離を取り、情報を減らし、自分を責めない扱い方を選ぶことが大切です。

逃げた先に余白が戻ると、また選び直せる日々が少しずつ増えていきます。

この記事の要点

  • 逃げたい気持ちは、心と脳が発する自然な生存のサインであること。
  • 逃げることは、壊れないための回復戦略になり得ること。
  • 自分を守る選択を重ねることで、人生は静かに整い直していくこと。 

 

 

📚 参考文献(APA形式)

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